9/18  令和6年度第10回学習会「野菜、果物の有機栽培と日本農業の今後」

本日の学習会は「野菜・果物の有機栽培と日本の農業の今後」と題して、東北大学大学院教授冬木勝仁先生から、今話題の多い農産物について、有機農業の定義・歴史・普及状況・消費動向・面積・生産者・農政及び転換と今後等について講演いただきました。

講師紹介

東北大学大学院農学研究科教授 冬木勝仁先生                                   

昭和37年12月 京都市生まれ
平成 元年 3月 京都大学大学院経済学研究科 修了
平成 2年 4月 東北大学農学部 助手
平成 6年 3月 東北大学農学部 講師
平成 7年 5月 東北大学より 博士(農学) 学位授与
平成 9年 2月 東北大学農学部 助教授
平成11年 4月 東北大学大学院農学研究科 助教授
平成19年 4月 東北大学大学院農学研究科 准教授
平成29年 4月 東北大学大学院農学研究科 教授
現在に至る

本日の講演内容

1.有機栽培(農業)の定義
1)我が国における定義:「有機農業の推進に関する法律」(2006年)
化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業
2)国際的な定義:コーデックス委員会(食品規格の策定を行うFAOとWHOの合同機関)
生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健在性を促進し強化する全体的な生産管理システム

2.有機農産物:有機農産物の日本農林規格(有機JAS)の基準に従って生産された農産物
この規格お認証を受けないと「有機」と表示できなく、認証を受けた農産物・食品には「有機JAS」のマークがついている

3.有機農業の歴史
農業は、戦後に化学肥料・農薬による大量生産が始まったが、その後公害問題・環境保全の問題から大量生産・消費からの脱却として、産直提携・産地直結(産直)の小規模直接取引型になった。その後、共同購入の大規模店舗販売型や協同組合間・農協と生協の提携と進展していった。
また、食の安全・安心への関心から大手スーパー等量販店・専門流通事業体(店舗・通販)の不確かな「有機農業」の使い方が氾濫して「有機JAS制度」による規格の制度となった。

4.有機農産物・食品の普及状況
有機食品の売り上げは世界では欧米中心に伸びているが、一人当たりの消費額は歴然として差がある。

5.日本における有機農産物・食品の消費動向
3割以上の消費者が週に1回以上有機食品を利用し、「有機野菜」が多く、「スーパー」での購入が多い。

6.有機栽培の面積
世界の有機栽培面積は全耕地面積の約2%に対し日本は0.7%低い。
日本国内で 生産される有機農産物は8万6千トンで野菜が多く、輸入される有機農産物は約5万トンで果実・大豆・コーヒーが多い。

7.有機農業の生産者
有機農業に取り組んでいる生産者は0.5%、新規参入者はよりよい農産物を提供したい(約7割)で有機農業への意欲が高い。
また、都道府県ごとに違いがあり、宮城県は今年になってから4市町村がオーガニックビレッジに初めて参加した。山形県は有機農業の先進地である。

8.日本の農政と有機栽培
「新しい食料・農業・農村政策の方向」(1992年)で「環境保全に資する農業政策」が明文化、「食料・農業・農村基本法」(1999年)で農村・農村の「多面的機能の十分な発揮」が目的に「自然循環機能の維持推進」が明文化され「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部改正する法律」で有機JAS認定制度の導入等が図られた。
また、「有機農業の推進に関する法律(2006年)で有機農業の推進を法制化している。

9.農の転換と有機農業の今後
「みどりの食料システム戦略」(2021年5月)で2050年までに目指す姿として”化学農薬の使用量を50%低減・化学肥料の使用量を30%低減・有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大する”をを掲げた。
「食料・農業・農村基本法」の改正(2024年5月)で「環境と調和のとれた食料システムの確立」という条文が新設され”消費者の役割”として、“食料の消費に際し、かんきょうへの負荷の低減に資する物その他の食料の持続的な供給に資する物の選択に努める”とされた。
また、「アグロエコロジー」(ヨーロッパを中心に広がっている)は、飢餓や環境破壊を引き起こす大規模・集約的な農業のあり方を変えるために生まれている。

 

本日の出席者は、520名でした。