10/28 イエ亡き時代の死者の行方
地域とイエを中心に行われていた”死者の葬送”の習俗と”死者の記憶”の保持は、イエの希薄化や消滅が進む現代社会においてはその形態が大きく変化しています。
本日は、宗教民俗学がご専門の東北大学総長特命教授の鈴木岩弓先生から、日本の葬送習俗の変遷と様々な墓の形態、それらの現況と実例についてお話しいただきました。
講師紹介
東北大学総長特命教授 鈴木岩弓(スズキ イワユミ)先生
専門:宗教民俗学・死生学
東北大学大学院 文学研究科 博士後期課程満期退学
島根大学 教育学部助教授
東北大学大学院 文学研究科教授
東北大学 総長特命教授、同名誉教授
1.はじめに
我が国の葬送習俗は大きく変化しており、”イエ”の消滅で死者の面倒を見る人がいなくなることが問題に。
2.「死者」とは誰か?
「死者」は目に見えない存在。生者にとっての「意味ある死者」は、死者への”想い”と”対面経験”の有無で、3種の「死者の人称」に分類できる。先祖・犠牲者・英霊などは「二・五人称の死者」と設定。
3.死者と生者の接点
”死者の記憶”が顕在化する行事、意味ある場所・時間 が死者との接点。
近年まではイエの死者・先祖の面倒は「地域」と「イエの子孫」が見てきたが、現代社会では価値観の変化により地縁・血縁の縮小傾向が顕著に。
4.イエとは何か
日本の「イエ」は先祖から子孫へ超世代的に存続される”単系性”の制度。「家名」や「家紋」などのイエのシンボルが永続する。
イエがある限り”死者の記憶”は存続するが、最終的には忘却されてしまう。「二・五人称の死者」とすることで忘れることを遅らせることができる。
5.合葬墓を紡ぐ箍(たが)
イエの継承者(子孫)の存在が不要な墓が求められてきた。「イエ亡き時代の死者の行方」は個人墓から合葬墓へ、そして最終的には永代供養墓へ。
【合葬墓の実例】
6.永代供養墓
墓地経営者の責任において、管理と弔いの永続性が担保された墓。墓の承継者がイエの子孫から墓地経営者に代わり、死者の儀礼も、寺もしくは経営者が宗教者を手配して実施する。
「脳死」が議論された1985年頃から始まり、21世紀の変わり目前後から急増、首都圏から始まり全国規模の動きに。
「永代供養墓」の使用資格は様々だが、経営者と利用者との関係、”想い”の醸成の可能性など課題も残る。
『まさに今は「イエなき時代」である。そういう家族が増えているが、そうでない所もある。色々な選択肢があるが正解はない。皆さんはどう思うかを考えていただきたい』と講演を締めくくられました。
*本日の出席者は237名でした