12月13日 不要不急の心理学

本日は、東北大学大学院教授 阿部恒之先生に 「不要不急の心理学」と題してご講演をいただきました。災害とは、危険そのものを指すのではなく、危険が脆弱性と出会ったときに起こるとされている。

講師紹介

阿部恒之先生

昭和60年3月 東北大学文学部哲学科(心理学専攻)卒業

同年4月 資生堂入社(ビューティーサイエンス研究所)

平成11年4月 資生堂在職のまま、東北大学大学院文学     研究科博士課程後期三年の課程(人間科学専攻・心理学分野)に編入学

平成13年3月 東北大学大学院文学研究科博士課程後期三年の課程修了、博士(文学)
平成17年8月 東北大学大学院文学研究科心理学講座助教授
平成22年4月~現在 東北大学大学院文学研究科心理学研究室教授

1.コロナ禍と震災

 災害とは、危険そのものを指すのではなく、危険が脆弱性と出会ったときに起こるとされている。新型コロナウイルス感染症は、マスクなどで対策することで脆弱性を減らすことができる。この時、他者はコロナウイルスを運ぶ感染源、すなわち危険であり、自らも他者にとっては危険である。
脆弱性を減じるために、ソーシャルディスタンスが提唱され、人と人との距離は遠ざかった。不要不急の外出を避けることが盛んに提唱されたが、これも脆弱性を減ずるための方便であった。なんだか、不要不急の行為は悪者のようだった。

 一方、東日本大震災の後、他者の存在は心強く、お互いに助け合った。他者は危険どころか、脆弱性を減らす味方であった。私たちが、2013年におこなった調査によれば、震災直後に困ったことのトップ3は、入浴・洗濯・移動であった。震災時、の入浴・お風呂という緊急性の低そうなものの大切なことが身に染みた。
少し落ち着いてから、「あってよかった」と思ったもののトップ3は、お風呂・自衛隊の助け・自家用車であったが、しかしその7位には、なんとテレビなどの娯楽がある。
不要不急とされることが、私たちにとっては思いのほか大切のようだ。

2.化粧の心理学

 化粧は、緊急時・災害時においては、不要不急の行為のひとつに挙げられるだろう。化粧は普段の生活で、どのような心理的影響を与えているか。
不要不急の行為は、私の重要な研究テーマであり、鋭意研究に取り組んでいる。
 本日の講演タイトルを「不要不急の心理学」としたのは、化粧の心理学的研究を紹介し、不要不急の行為が私たちにとって意外と重要なものであることをお伝えしたいと考えた

 スキンケアの心理学

 メーキャップの心理学

  セラピーメイク

  感情調節装置としての化粧行動
 私的自意識は、自分自身を見つめる目。
公的自意識は、他人視線で自分を見つめる目。自尊心は、自分の価値を信じる気持。スキンケアは心のアンテナを自分に向けなおし、私的自意識を強めて「いやし」をもたらす。メーキャップは心のアンテナを社会に向け直し、公的自意識を高めて「はげみ」をもたらす。
化粧は不要不急の行為かもしれないが、このような作用を通じて、化粧は日常生活の感情調節装置としての大切な機能を担っている。

※ご参考 阿部先生のご研究が、内館牧子さんの著書「すぐ死ぬんだから」のあとがきに引用されております。この本は、人生終盤の過ごし方を考えさせられる小説です。化粧やおしゃれが、重要なテーマになっています。

 本日の出席者数は493名でした。

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