5/24 オーロラの不思議

小原隆博先生はJAXAに25年間勤務した間に向井、野口宇宙飛行士と一緒に仕事をされ磁気嵐などの宇宙の天気予報を担当されました。小原先生の研究テーマは「宇宙空間物理学」で大学院在学中に科学衛星のプロジェクト(おおぞら1984年打ち上げ)に参加、宇宙科学研究所職員となり”あけぼの”(1989年打ち上げ)のプロジェクトに参加されました。本日の講義ではオーロラの発生の仕組みについて、原因である太陽の活動も含めて詳しく解説をして頂きました。

講師紹介
東北大学名誉教授 放送大学客員教授
小原 隆博 (オバラ タカヒロ) 先生
昭和61年10月  文部省宇宙科学研究所・助手(東京大学助手併任)
平成  9年    2月  郵政省通信総合研究所・宇宙環境研究室長
平成14年   4月  情報通信研究機構・宇宙環境グループ長
平成20年   4月  宇宙航空研究開発機構・宇宙環境グループ長
平成23年12月  東北大学大学院理学研究科・教授
令和  5年    3月  東北大学 定年退職(東北大学名誉教授)
令和  5年    4月  放送大学・宮城学習センター客員教授 就任

1.はじめに

国際宇宙ステーション(ISS)から撮影したオーロラの画像(明滅型オーロラ)と地上(昭和基地)から撮影したオーロラの画像説明があり、昭和基地はオーロラが最も良く見えるオーロラ帯(地球の磁石の極である磁極を中心にしている)にある。

オーロラが輝くときはマグニチュード7クラスの地震に相当する大量のエネルギーが消費される。

昭和基地があるオーロラ帯

2.オーロラ観測の歴史

オーロラの名付け親はガリレオ・ガリレイと言われており、ローマ神話の女神Auroraの名前をとって名付けられた。Auroraは夜明けを告げる暁の女神で夜明けの光は知性と創造をもたらす光と思われていた。オーロラの名前が広がったのは17世紀ですが、それ以前にも現象は広く人々に認知されており、古代ギリシャではアリストテレスがオーロラは「天が裂けた光である」と記述している。日本でも「赤気・紅気」と呼ばれ書物に記録が残されている。オーロラ発光領域の高い所では赤い色で、古くから不吉なものとされ、戦いが多かった中世では不吉なもの、災いをもたらすものとして忌み嫌われていた。オーロラ研究のきっかけは探検家の活動に大きな関係があり、18世紀にジェームズ・クック船長が「南半球航海の途中にオーロラを見た」と記述し、19世紀半ばに北極航路を開発中のジョン・フランクリンが遭難して救助に向かった捜索隊によりオーロラの記述が残されている。

3.オーロラ研究の始まり

電子の発見者で有名なトムソンが光電管から出る光(蛍光の一つ)がオーロラの発する光と同じものであろうと著書で述べている。ノルウェーのオスロ大学教授ビルケランドは巨大な磁石の塊に電子を打ち込み磁石の極部分にオーロラの光を確認した。また野外での観測も行い、オーロラは約100kmの高さで輝く事を明らかにした。

4.オーロラの光

オーロラの緑の光は高度100km付近で、赤い色の光は250km付近で発生しており赤い光が発生するためには十分に空気が薄いことが必要です。高度200km以下では電子同士の密度が濃いために110秒以内に原子同士が衝突してエネルギー遷移が出来ない。

 

5.オーロラ概観

カーテン状のオーロラをデイスクリートオーロラと呼び、明滅型のオーロラをパルセーテイングオーロラと呼びます。出現時間はカーテン状が午前0時前で明滅型は午前0時過ぎに現れます。真夜中前に東西に伸びた薄いオーロラの光が突如大きく形を変えて輝く現象をオーロラ爆発と呼びます。太陽から地球に向かって吹いてくる風を太陽風と呼び、太陽風の勢いが増してしばらくするとオーロラ爆発が起きます。オーロラは、電子が宇宙から降り注ぎ、地球大気の酸素原子と衝突することで発光していました。

地上から撮影したオーロラ

6.宇宙からのオーロラ観測

人工衛星「極光」に紫外線カメラ搭載し宇宙から紫外線のオーロラ(水素原子は紫外線を出す)見たのは日本が初めてであり、電子を加速する領域がオーロラ上空数千kmの場所に存在していた。極光衛星は楕円軌道で遠地点が3500km、赤道面から75度傾いた軌道の準極軌道衛星です。後継機の「あけぼの衛星」の遠地点は極光よりも高く10050kmでオーロラの上空を隈なく観測しました。その結果電子やイオンは高度6000km付近の狭い領域で加速されている事が分かりました。

7.オーロラ発生の仕組み

太陽の大気コロナが宇宙空間に飛び出して行くことが全ての始まりで、太陽風が地球に吹き付けると磁気圏対流が形成(500km/秒)される。その結果、ローブの磁力線は開いておりプラズマシートは閉じている事が分かりました。ローブにあった粒子は、磁力線が閉じる事でプラズマシートに捕捉されオーロラを光らせる電子が沢山蓄積されます。オーロラ発生を検証する目的で「GEOTAIL衛星」が打ち上げられ、オーロラ爆発に伴うプラズマシートの構造変化(地球に近い所で磁力線の再結合が起こっていた事)を確認した。こうして、極域での地上や衛星によるオーロラ観測と磁気圏尾部でのプラズマシートの観測をつなぎ合わせることで、オーロラ発生のシナリオが確かめられました。

8.太陽がオーロラ発生の原因

オーロラの原因は太陽です。太陽の大気はコロナですが、X線や紫外線で撮影するとコロナホールと呼ばれる黒く映る部分があります。オーロラ嵐は太陽の自転周期は27日ですが、丁度27日後にコロナホールからの高速太陽風が地球に到達します。コロナホールはオーロラ発生の原因の一つですが、もう一つの原因は太陽フレア(太陽表面爆発)です。太陽表面の活動度は太陽黒点により支配され黒点は11年周期で発生し黒点上空の磁力線と太陽内部から浮き上がってくる磁力線がコロナの中で磁気再結合が発生し激しい爆発が起こり、たくさんのX線や紫外線、可視光線、電波が一斉に放出され、太陽フレアが発生します。太陽をHα線で観測すると黒点を挟むように黒い筋が見えますがフィラメント(プロミネンス)です。このプロミネンスが飛び出して2日後に地球に衝突する事があり磁気嵐を発生させて激しくオーロラが輝きます。

 

9.惑星のオーロラ

ハッブル宇宙望遠鏡やNASAの宇宙探査機ボイジャーが撮影した太陽系惑星の中でオーロラが観測されたのは木星と土星です。木製の極と衛星のイオ・ガニメデ・エウロパにも見られ、イオ衛星が木星の周りを公転している事で発電が起こり加速された電子が木星の大気である水素原子に衝突して水素原子を励起し発光します。

水素が出す光は紫外線です。

10.おわりに

大気の粒子が、外からのエネルギーを与えられ、可視光や紫外線を出す仕組みが最近の科学衛星や望遠鏡の観測で大分明らかになりましたが、宇宙には沢山の星と惑星があり、中には酸素を出す惑星があり、植物が生育している可能性もあります。オーロラの光の研究は、宇宙に生命を探す旅に繋がっていくようですとして、まとめ(1)と(2)で締めくくられました。

本日の出席者は538名でした。